浸透圧性脱髄症候群(ODS)
浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome:ODS)は、低ナトリウム血症の急速な是正によって起こります。
慢性的な低ナトリウム血症では、脳細胞内が細胞内の浸透圧物質を細胞外へ排出する防御機構が働きます。この防御機構により、脳細胞内は低張に保たれて細胞容積の増大(腫脹;swelling)を防いでいます。このような状態で急激に血清ナトリウム濃度を補正しようとすると、脳細胞から水が流出して細胞が萎縮しODSが生じます。浸透圧の変化に最も敏感な橋で生じやすく、橋中心脱髄症候群(central pontine myelinolysis)とも呼ばれますが、橋以外の基底核や視床でも病変は認められます。
ODSの症状は様々ですが、仮性球麻痺による構語障害、四肢麻痺、けいれん、意識障害などが生じ、重篤な場合は死に至ります。ODSの症状は、血清ナトリウム濃度の急速補正により一旦低ナトリウム血症の中枢神経症状が消失した数日後、時間を置いて出現するケースが多いとされています。 病変部位は頭部のMRI(magnetic resonance imaging)のT1強調画像で低信号、T2強調画像やFLAIR(fluid attenuated inversion recovery)像では高信号として認められます。
一方で、心因性多飲症やマラソンランナー、脳外科手術後など、48時間以内に急激に血清ナトリウム濃度が低下した場合は、低ナトリウム血症に対する脳細胞での防御機構が働いていないため、ODSのリスクは低いとされています。そのため、48時間以内に重症の低ナトリウム血症に進行した場合は積極的な血清ナトリウム濃度の補正を行いますが、経過が分からない場合は、緩徐に補正を行います。
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