診断について/SIADHの鑑別診断

SIADHの鑑別診断

低ナトリウム血症は、日常臨床で遭遇することの多い電解質異常であり、低ナトリウム血症を呈する病態や疾患もさまざまです。SIADHの診断は、他の低ナトリウム血症をきたす疾患や病態を除外する除外診断となっており、「脱水の所見を認めない」ことを主症候としています。「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」では、鑑別診断として表1に掲げたものを除外することとしています。SIADHの診断で、細胞外液量の減少する低ナトリウム血症を除外すれば「脱水の所見を認めない」ことになります。

表中では、体液(細胞外液)量ごとに疾患が示されており、体液(細胞外液)量過剰な低ナトリウム血症としては心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群が、体液(細胞外液)量の減少する低ナトリウム血症としては、原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症など、そして体液(細胞外液)量がほぼ正常な低ナトリウム血症としては、続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)が挙げられています。

体液量の減少を伴う低Na血症では水分制限を行うことで病態が悪化します。SIADHと体液量の減少した低Na血症との鑑別が困難です。
低Na血症の補正が急を要さない場合はまず水分制限を行い、慎重に経過を見ることになります。また、低Na血症の補正が急を要する場合は生理食塩水の点滴を短時間施行し、血清Na濃度の推移を評価します。
体液量の減少した低Na血症では脱水の改善に伴い血清Na濃度が上昇しますが、SIADHでは循環血液量の増加によりNa利尿が生じて血清Na 濃度はむしろ低下します。また,続発性副腎不全はSIADHと同様に循環血液量が正常範囲を示す低Na血症で、鑑別診断のためには血漿ACTH濃度および血漿コルチゾール濃度の評価が必要となります。

表1 SIADHの鑑別診断 ※表中のテキストリンク(青字)をクリックいただくと詳細説明ページをご覧いただけます。
低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。
  1. 細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群
  2. ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症塩類喪失性腎症中枢性塩類喪失症候群
    下痢、嘔吐利尿剤の使用
  3. 細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)
(附記)下垂体手術後の遅発性低ナトリウム血症は約20%に発症する比較的頻度の高い病態です。SIADHや中枢性塩類喪失症候群が原因となるが、病態が経時的に変化することがあり注意を要します。

監修/有馬 寛. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版. 日本内分泌学会雑誌;2023. P21-23.(一部抜粋)

柴垣有吾. 監修/深川雅史. 体液電解質異常と輸液 改訂3版. 中外医学社;2019. P70.
塚本雄介. 専門医のための水電解質異常 診断と治療. 東京医学社 ; 2020. P172.
山口秀樹ほか : 日内会誌. 2016 ; 105(4): 667-675.